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福岡高等裁判所 昭和42年(行コ)4号 判決 1969年2月05日

控訴人 株式会社柏田洋服店

被控訴人 熊本税務署長

訴訟代理人 日浦人司 外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し、(イ)昭和三六年三月三一日付をもつてなした昭和三〇年四月二八日から翌三一年二月二九日までの事業年度の法人税の更正処分ならびに重加算税の賦課処分、(ロ)昭和三八年三月三〇日付をもつてなした昭和三一年三月一日から翌三二年二月二八日までの事業年度の法人税の更正処分ならびに重加算税の賦課処分、(ハ)昭和三六年三月三一日付をもつてなした昭和三三年三月一日から翌三四年二月二八日までの事業年度の法人税の更正処分ならびに重加算税の賦課処分は、いずれもこれを取消す。被控訴人が控訴人に対し、昭和三六年三月三一日付をもつてなした昭和三三年三月一日から昭和三四年二月二八日までの事業年度以降控訴人の法人税青色申告書提出承認の取消処分を取消す。訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴指定代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は

控訴代理人において

被控訴人は、控訴人に対し昭和三六年三月三一日付をもつて昭和三三年三月一日から昭和三四年二月二八日までの事業年度(昭和三三年事業年度)分以降の法人税青色申告書提出承認の取消処分をした。しかし、昭和三六年三月三一日になされた右取消処分は遡及して昭和三三年事業年度分の承認取消の効力を生ずるものと解することはできない。仮りに右取消処分により昭和三三年事業年度分の承認取消が有効であるとしても、昭和三〇年、三一年事業年度分の法人税青色申告書提出承認は取消されていない。ところで、青色申告書の提出による事業年度分の法人税に対しては、間接的な資料を基礎とした推計方式によつて算出された所得にもとづいて更正決定をすることが許されていない。これは法規上判例上明らかなところである。しかるに、被控訴人の右事業年度分に対する本件更正決定は推計による課税標準額にもとづくものであるから違法というべきである。

と述べ、<証拠関係省略>

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきであると判断するが、その理由は次のとおり付加するほか、原判決説示の理由と同様であるから、これを引用する、当審証人柏田芳治、同柏田芳信の各証言ならびに控訴人代表者柏田芳市の本人尋問の結果のうち原判決認定に牴触する部分は、原判決認定の挙示各証拠に対比して採用できない。

一、控訴代理人は、昭和三六年三月三一日に昭和三三年事業年度分の青色申告承認を遡及して取消してもその効力が生じないと主張するが、旧法人税第二五条第八項(昭和三二年三月三一日法律第二八号による改正分)は、当該法人の備え付ける帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載する等当該帳簿書類の記載事項の全体について、その真実性を疑うに足りる不実の記載があると認める場合においては、その事実があつたと認められる時までさかのぼつて青色申告の承認取消ができる旨を規定しており、引用の原判決認定によると、控訴人は昭和三三年事業年度において偽名等による取引分につき控訴人備え付けの帳簿書類に取引の一部を隠ぺいし又は仮装して不実の記載をしたことが明らかであるから、被控訴人が昭和三六年三月三一日に至り右昭和三三年事業年度にさかのぼつて青色申告承認の取消をしたものであり、右処分は有効である。

二、控訴代理人主張のとおり、控訴人の昭和三〇年、三一年事業年度分の青色申告の承認取消はなされていない。旧法人税法第三一条の四第一項(昭和三二年三月三一日法第二八号による改正分)は、「青色申告法人が青色申告書を提出した事業年度についてその帳簿書類を調査しその調査により課税標準または欠損金額の計算に誤りがあると認められる場合に限り更正をなすことができる。」旨規定し、青色申告書の提出があつた事業年度分の更正には当該法人の帳簿書類の調査をもつてその要件としている。従つて、間接事実による推計も判断の資料とすることはできるが、帳簿書類の調査をはなれてそれだけによつて更正することは許されないと解せられる。しかし、帳簿書類を調査した結果当該法人の取引に関連して個別的に発見された簿外資産を加算する等直接資料にもとづいて当該事業年度分の所得金額を推認することは、単なる推計課税方式ではなく、前示条項の「その帳簿書類を調査しその調査により課税標準または欠損金額の計算に誤りがあると認められる場合」に当ると認めるのが相当である。引用の原判決認定によると、被控訴人は帳簿書類の調査のうえ原判決添付別表第一記載の資産(昭和三〇年、三一年事業年度分)を控訴人の簿外資産と認定し、その期首と期末の増減分の合計すなわち純資産の増加をもつて控訴人の簿外取引による所得金額と推認し、これを争いない控訴人主張の各事業年度の所得金額に加算したものを基礎に各事業年度の法人税額を算出して昭和三〇年、三一年事業年度分につき本件更正処分がなされたものである。本件更正処分は、旧法人税法第三一条の四第一項に違背するところはなく、適法というべきである。

よつて、原判決は相当で本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 江崎弥 弥富春吉 倉増三雄)

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